近赤外分析(NIR)とは

近赤外について

近赤外(線)とは光の波長の種類の1つです。光には波長によって名称があり、短波長側からX線・紫外線・赤外線などがあり、近赤外領域は可視領域と中赤外領域の間、780~2500nmになります。
(他に750~2500nm/USP,750~2500nm/JISなどと定義されている)

近赤外光は、1800年、英国のF.W.Herschelによって発見されました。1960年代にはいり、米国農務省(USDA)ベルツビル農業研究センターのKarl Norrisらが、近赤外領域における穀物の吸収バンドを有することを見出し、水分、タンパク質、油分などの一般成分分析に応用したことを起点とし、今日の近赤外分光法の応用・発展に繋がっています。

近赤外分析計

分光方式には(1)分散型と(2)干渉計(フーリエ変換型)などがあります。分散型には、回折格子が一般的です。明るく分解能の良い装置には大きな回折格子が必要になります。また回折格子には、固定された回折格子を用い、分光された光を多数の検出器を一列にならべたフォトダイオードアレイで受ける方式や、非常に小型化された MEMS などがあります。目的を限定した機器では干渉フィルターが採用されています。また AOTF(音響分光)のように非常に高速で分光できるユニークな方式もあります。赤外分析では一般的なフーリエ変換型は、30 年くらい前より近赤外分析にも導入され始めました。フーリエ変換型には、平面鏡型や耐震性をもたせたコーナーキューブ型などがあります。近赤外分析は光を試料に当て、その試料の光の反射、吸収、透過を利用し測定する分析技術です。

測定方法について

測定方法はサンプルの形態によって適切な測定方法があり、(ⅰ)透過法、 (ⅱ)透過反射法、(ⅲ)拡散反射法、(ⅳ)インタラクタンス法、などがあります。

近赤外分析は試料に光を照射し、その拡散反射光や透過光を測定します。試料を前処理せずに測定が可能すなわち非破壊(あるがまま)で測定が出来ることが一番のメリットとなります。また迅速測定が可能で、非破壊分析ゆえ薬品が不要で環境にやさしい分析法と言えます。

近赤外領域で何がわかるか

近赤外光を試料に照射すると、含まれる成分、例えば大豆に含まれる水分、タンパク質、脂質により吸収されます。具体的には試料中の水分であれば-OH,タンパク質であれば-NH,脂質であれば-CH など、主に水素が結合した官能基に吸収されます。これらの官能基は近赤外領域においてそれぞれ固有の吸収波⾧をもち、その波⾧の吸収変化を観察することにより成分を測定出来ることになります。
実際に菜種原料と菜種粕のスペクトルを比較すると、脂質が抽出された菜種粕では、菜種原料にある2310nm や 2350nm の特徴的な吸収が見られません。したがって、この特徴的な吸収は脂質の吸収であることがわかります。次に大豆原料と大豆粕のスペクトルを見てみましょう。大豆の抽出工程をへて油脂などの影響がなくなり、2050nm,2180nm に大豆では確認できなかったタンパク質の吸収が確認できます。

次の図は、近赤外領域水分、タンパク質、脂質、デンプンのスペクトルです。これからもわかるように、脂質は 2310nm,2350nm に、タンパク質は 2180nm,2050nm に吸収をもち、菜種と大豆のスペクトルでみられる違いに合致します。

またこの図からわかるように、1940nm と 1445nm には水分の、2100nm にはデンプンの吸収があることがわかります。

近赤外分析とケモメトリックス

近赤外領域には、官能基による吸収が存在することは前述したとおりですが、近赤外分析は非破壊であ
るがゆえ、試料に含まれるそれぞれの成分のスペクトルが同時に測定されてしまします。水分測定を特徴的な 1940nm を用いて検量線を作成しようとした場合、水分の吸収のみならデンプンやタンパク質の吸収も取り込んでしまうため、実際の水分量と吸光度変化に相関がとれません。
菜種粕の 1940nm の吸光度と水分値をプロットすると左図のようになります。傾向はあるものの相関性が低く検量線とは言えません。これは 1940nm の吸光度には水分だけでなく他の成分を同時に測定しているからです。そこで、成分吸収のほぼない 1680nm の吸光度との差をとり水分値とプロットすると右図のようになり相関性が改善されます。このように複数の説明変数を用いて検量線を作成するのが近赤外分析の特徴です。ここで示した二つの目的変数を用いて検量線を計算する手法を重回帰(MLR)と言い近赤外分析初期に使用されていました。近年では PC 能力の飛躍的向上もあり、スペクトル全体を取り込み計算する主成分回帰(PCR)や PLS 回帰(PLSR)が一般的な手法となっています。

近赤外分析では試料の成分分析だけではなく、試料特有のスペクトルを用いて定性分析も行うことができます。医薬品製造では、原料受入時の確認試験に利用されています。以下の図はブドウ糖無水物、ブドウ糖―水和物、マンニトール、ソルビトール、ショ糖のスペクトルです

スペクトルの違いが確認できます。近赤外分析では、スペクトルの比較から判定する手法もありますが、スペクトルデータの主成分分析(PCA)を行い Score 軸上での座標位置の違いに変換し判別していきます。下記は主成分1と3の2次元で表した結果です。

その他に、SIMCA やクラスターを用いて判別する手法もあります。
またプラスチックも固有のスペクトルを持つため、廃プラスチックの識別に利用されています。

近赤外分析を使用した分析器